私の飼った犬 斎藤弘吉
私が飼った犬 斎藤幸吉
たくましかった虎毛 百
奈良田部落の調査を終えて、それから高山、トノコヤ峠を越えて芦安村に出るため、 深沢さんという猟師に道案内を頼みましたが、この人の連れていた虎毛八カ月のオス犬が 実に名犬でした。
このあたりは、ほとんど岩山で、しかもくずれやすいぼろぼろの岩、ちょっと足をかけても、ガラガラとくだけ落ちる石ころの道ですが、この黒虎毛は、実にたくみに、軽くその上を飛び歩いて、決して石を落としません。
石ころを落としては、その音で獲物のカモシカが逃げてしまうからでしょう。案内の深沢さんが、一行の先頭に立つと、この黒虎毛は安心した様子で、百メートルぐらい先を歩いています。道の分かれているところでは、振り返って、深沢さんの左右の手の合図で、その方に進んで行きます。
試みに私が先頭に立ってみると、早速引き返してきて、深沢さんの側について離れません。この利口さには、私もびっくりしました。
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